マイナンバーを安全に管理する方法

マイナンバーの取り扱いは、企業の信用と事業継続を左右する重要なコンプライアンスです。ここでは、目的や罰則の要点から、組織・人・物・技術の4領域にわたる具体的対策まで、実務で使える形で整理します。

マイナンバーの安全管理措置とは?

安全管理措置を適切に実施することは、単なる事務作業ではなく、企業の社会的信用を守るための重要なコンプライアンス活動といえます。このセクションでは、その基本的な定義と、なぜ対策が不可欠なのかを解説します。

安全管理措置の目的

安全管理措置の最大の目的は、マイナンバーを含む「特定個人情報」を保護することです。「特定個人情報」とは、マイナンバーと、それに紐づけて管理される氏名、住所、生年月日などの個人情報を指します。

マイナンバーは、社会保障、税、災害対策の分野で、行政機関が個人の情報を正確かつ効率的に管理するために利用される重要な基盤です。そのため、万が一マイナンバーと個人情報がセットで漏えいすると、不正に個人情報が追跡されたり、悪用されたりするリスクが高まります。

こうした事態を防ぎ、個人の権利利益を保護するために、事業者にはマイナンバーを取得してから廃棄するまでの一連のプロセスにおいて、厳格な安全管理措置を講じることが求められています。

なぜ厳格な管理が必要?違反した場合の罰則

マイナンバーの管理が厳格に求められる背景には、その重要性ゆえのリスクの高さがあります。もし企業が管理を怠り、特定個人情報を漏えいさせてしまえば、企業の社会的信頼は大きく損なわれ、事業継続に深刻な影響を及ぼす可能性があります。

さらに、番号法(マイナンバー法)では、特定個人情報の不適切な取り扱いに対して、一般的な個人情報保護法よりも重い罰則が設けられています。

例えば、正当な理由なく特定個人情報ファイルを提供した場合、「4年以下の拘禁刑もしくは200万円以下の罰金、またはその両方」が科される可能性があります。また、これらの違反行為が法人の業務に関して行われた場合、行為者だけでなく法人自身にも高額な罰金刑が科されることがあります。このように、厳しい罰則が定められていることからも、安全管理措置の徹底がいかに重要かがわかります。

組織的安全管理措置の具体的な対策例

組織的安全管理措置は、マイナンバー管理における組織としての「憲法」を作るようなものです。個人の判断に依存しない、一貫性のある管理体制を築くために不可欠です。ここでは、ガイドラインで示されている組織的安全管理措置について、企業が取り組むべき具体的な4つの対策例を解説します。

事務取扱担当者と責任者を明確にする

まず最初に行うべきは、マイナンバーを取り扱う「事務取扱担当者」と、その業務全体を監督する「責任者」を明確に定めることです。誰にでもアクセスできる状態は、情報漏えいのリスクを著しく高めます。

担当者と責任者を特定の役職や個人に限定することで、責任の所在が明らかになり、不要なアクセスを防ぐことができます。担当者は、実際に源泉徴収票や社会保険関連の書類を作成する経理・人事部門の従業員などが該当します。

ポイントは、担当者の範囲を必要最小限に絞ることです。関わる人数が少ないほど、管理は徹底しやすくなります。担当者が複数いる場合は、それぞれの役割分担や責任範囲も明確にしておくと、より安全な体制が構築できます。

マイナンバーの取扱いに関する規程を策定し運用する

担当者と責任者を決めたら、次にその人たちが従うべき具体的なルールブックとして「取扱規程」を策定します。この規程には、マイナンバーの取得から利用、保管、提供、そして最終的な廃棄に至るまで、各段階における詳細な手順や禁止事項を明記します。

例えば、「取得段階」では本人確認の方法、「保管段階」では施錠できる書庫に保管すること、「廃棄段階」ではシュレッダーで復元不能にすることなど、具体的なアクションを定めます。

取扱規程を文書化しておくことで、担当者が自己流で業務を行うことを防ぎ、担当者が交代する際の引き継ぎもスムーズになります。策定した規程は、ただ作るだけでなく、関係者全員に周知し、その内容に沿って運用されているかを定期的に確認することが重要です。

取扱状況がわかるように記録・管理する

マイナンバーが、策定した取扱規程通りに適切に運用されているかを確認するためには、その利用状況を記録し、後から追跡できる仕組みが必要です。これにより、不正な利用や持ち出しがないかをチェックし、万が一問題が発生した際に原因を究明する手がかりとします。

具体的な方法としては、誰がいつ特定個人情報ファイルにアクセスしたかを示す「アクセスログ」や、システムへの「ログイン実績」を記録することが挙げられます。

また、紙媒体で管理している場合は、特定個人情報が記載された書類の持ち出し記録簿を作成したり、廃棄した際にその日時や方法、確認者を記録として残したりすることも有効です。これらの記録を残すことで、マイナンバーが常に監視下にあるという意識が生まれ、不正利用の抑止力としても機能します。

漏えい事故に備えた報告・連絡体制を整備する

どれだけ厳重に対策を講じていても、ヒューマンエラーやサイバー攻撃などにより、情報漏えいや紛失といった事案が発生する可能性はゼロではありません。そうした万が一の事態に備え、迅速かつ適切に対応するための報告・連絡体制をあらかじめ整備しておくことが極めて重要です。

具体的には、事故やその兆候を発見した従業員が、直ちに責任者へ報告するエスカレーションルートを明確に定めておきます。そして、責任者が状況を把握し、経営層や関係各所に報告するまでのフローを文書化し、全従業員に周知します。

迅速な初期対応は、被害の拡大を防ぐ上で最も重要です。また、法令で定められた個人情報保護委員会への報告義務を果たすためにも、インシデント発生時の対応体制の構築は必須の措置となります。

人的安全管理措置の具体的な対策例

人的安全管理措置は、マイナンバーを取り扱う「人」に焦点を当てた対策です。優れたルールやシステムも、それを利用する従業員の知識や意識が伴わなければ意味を成しません。ここでは、ヒューマンエラーや不正行為を未然に防ぐための、3つの具体的な対策例を解説します。

事務取扱担当者への監督

事業者は、事務取扱担当者が社内の取扱規程や関連法令に基づいて、マイナンバーを適正に取り扱っているかを「必要かつ適切に監督する」義務があります。これは、ルールが形骸化するのを防ぎ、常に緊張感を持って業務にあたってもらうための重要な措置です。

監督の具体的な方法としては、責任者が定期的にマイナンバーの取扱状況の記録をチェックし、規程から逸脱した作業が行われていないかを確認することが挙げられます。例えば、アクセスログを検証して不審なアクセスがないかを確認したり、書類の保管状況がルール通りかを実地で点検したりします。

このような監督体制を構築することで、万が一の不正やミスの兆候を早期に発見し、重大な事故につながる前に対処することが可能となります。

事務取扱担当者への教育・研修

マイナンバーを安全に取り扱うためには、担当者がその重要性や関連する法律、社内ルールを正しく理解していることが大前提です。そのため、事業者は事務取扱担当者に対して、定期的かつ継続的な教育・研修を実施しなければなりません。

研修の内容としては、番号法(マイナンバー法)の趣旨、特定個人情報の範囲、違反した場合の罰則といった基本的な知識から、自社の取扱規程の具体的な内容、過去に起きた情報漏えい事案の共有とその対策まで、幅広く網羅することが望ましいです。

法改正があった際や、新入社員が配属されたタイミングで研修を行うなど、全担当者の知識レベルを常に最新かつ高い水準に保つ努力が求められます。これにより、知識不足による意図しないルール違反や、セキュリティ意識の低下を防ぎます。

就業規則への秘密保持義務の明記

従業員に対して、マイナンバー情報の管理に対する法的な責任と義務を明確に自覚させることも、人的安全管理措置の重要な一環です。その最も効果的な方法の一つが、就業規則や入社時の誓約書に、特定個人情報に関する「秘密保持義務」を明記することです。

具体的には、「業務上知り得たマイナンバーを含む特定個人情報を、在職中はもちろん、退職後においても正当な理由なく第三者に漏えいしてはならない」といった条項を設けます。

これにより、従業員一人ひとりのコンプライアンス意識を高める抑止力としての効果が期待できます。また、万が一、従業員がこの義務に違反して情報漏えいを引き起こした場合に、懲戒処分の根拠とすることができるなど、企業の秩序維持とリスク管理の観点からも不可欠な対策です。

物理的安全管理措置の具体的な対策例

物理的安全管理措置は、マイナンバー情報が記録されている「モノ」と、それを取り扱う「場所」に対する直接的な防衛策です。ここでは、オフィスですぐに実践すべき4つの具体的な対策例を解説します。

管理区域と取扱区域を設定し入退室を管理する

まず、社内でマイナンバー情報を取り扱うエリアを明確に定め、権限のない従業員や部外者が安易に立ち入れないようにゾーニング(区域管理)を行います。ガイドラインでは、主に2つの区域を設定することが求められています。

一つは、マイナンバーのデータを管理するサーバー等が設置された「管理区域」です。この部屋へはICカードや物理的な鍵で入退室を管理し、誰がいつ入ったのかを記録できるようにします。

もう一つは、担当者がマイナンバー関連の事務作業を行う「取扱区域」です。このエリアは、パーテーションを設置して他の部署から区切ったり、座席の配置を工夫して背後からモニターを覗き見されないようにしたりといった対策が有効です。

書類や電子媒体の盗難・紛失を防止する

マイナンバーが記載された扶養控除等申告書などの書類や、データが保存されたUSBメモリ、ノートパソコンなどは、盗難や紛失のリスクに常に晒されています。これらの物理媒体を保護するための保管ルールを徹底することが重要です。

最も基本的な対策は、業務時間外や担当者が離席する際に、関連書類や電子媒体を施錠できるキャビネットや書庫に保管することです。これにより、日々の業務終了後のオフィス侵入による盗難などを防ぎます。

また、ノートパソコンやサーバーといった機器自体が盗まれないよう、セキュリティワイヤーで机やラックに固定することも有効な手段です。こうした物理的な対策を講じることで、紛失や意図的な持ち出しのリスクを大幅に低減できます。

マイナンバーの持ち出しルールを定める

マイナンバーが記録された媒体を社外へ持ち出す行為は、移動中における紛失や盗難のリスクが極めて高いため、厳格な管理が求められます。原則として持ち出しは禁止とし、やむを得ず持ち出す必要がある場合は、ルールを定めて安全を確保しなければなりません。

例えば、電子媒体(USBメモリやノートPC)で持ち出す際は、ファイルにパスワードを設定したり、データを暗号化したりすることを必須とします。紙の書類であれば、封筒に封入して鞄に入れるなど、中身が他人に見えないように配慮します。

さらに、誰が、いつ、何を、どこへ持ち出したのかを記録簿で管理し、責任者の許可を得るプロセスを設けることも重要です。これにより、不要な持ち出しを抑制し、万が一の紛失時にも迅速な追跡が可能となります。

不要になったマイナンバーの廃棄・削除を徹底する

従業員の退職などにより、マイナンバーを取り扱う必要がなくなった場合、法律で定められた保存期間が経過した後は、その情報を速やかに廃棄・削除しなければなりません。不要になった特定個人情報を保有し続けることは、情報漏えいのリスクを不必要に抱え込むことになるため、番号法で禁止されています。

紙媒体の書類を廃棄する際は、焼却や溶解のほか、復元が困難なマイクロカット方式のシュレッダーにかけるといった方法が確実です。パソコンやサーバー内のデータを削除する場合は、専用のデータ削除ソフトウェアを利用するか、ハードディスクを物理的に破壊します。

技術的安全管理措置の具体的な対策例

技術的安全管理措置は、パソコンやサーバーといった情報システムに対するセキュリティ対策です。サイバー攻撃やコンピュータウイルスといった、目に見えない脅威からマイナンバー情報を守るための重要な防衛策となります。ここでは、企業が導入すべき4つの具体的な対策例を解説します。

アクセスできる担当者と情報範囲を制限する(アクセス制御)

まず基本となるのが、マイナンバー情報にアクセスできる人をシステム上で厳密に制限する「アクセス制御」です。これは、組織的安全管理措置で定めた事務取扱担当者以外が、誤って、あるいは意図的に特定個人情報ファイルに触れることがないようにするための仕組みです。

具体的な方法としては、パソコンのユーザーアカウント管理機能を利用し、マイナンバーを取り扱う担当者専用のアカウントを発行します。そして、そのアカウントからしか特定個人情報が保存されているフォルダやファイルにアクセスできないように権限を設定します。

さらに、担当者ごとにも権限の強弱をつけ、「Aさんは閲覧のみ可能」「Bさんは編集も可能」といったように、業務上必要な最小限の権限のみを付与することが望ましいです。これにより、内部不正や万が一のアカウント乗っ取り時の被害を最小限に抑えることができます。

利用者IDやパスワードでアクセス者を識別・認証する

アクセス制御を有効に機能させるためには、システムにアクセスしようとしている人物が、本当に許可された本人であるかを確認する「識別と認証」の仕組みが不可欠です。最も一般的な方法が、利用者IDとパスワードの組み合わせです。

事務取扱担当者には、それぞれ固有のIDと、他人が容易に推測できない複雑なパスワードを設定させます。パスワードは、英数字や記号を組み合わせ、十分な長さを確保することが重要です。また、セキュリティを維持するために、定期的なパスワードの変更をルール化することも求められます。

IDとパスワードが適切に管理されていれば、なりすましによる不正アクセスを防ぐことができます。担当者には、パスワードを付箋に書いてモニターに貼る、といった行為をしないよう徹底させることも大切です。

外部からの不正アクセスを防止する

インターネットに接続している以上、企業は常に外部からの不正アクセスやサイバー攻撃の脅威に晒されています。これらの攻撃から社内ネットワークと情報システムを守るための対策は必須です。

まず、社内ネットワークとインターネットの境界に「ファイアウォール」を設置し、不正な通信を遮断します。ファイアウォールは、外部からの攻撃を防ぐための「防火壁」の役割を果たします。

さらに、社内で使用するすべてのパソコンやサーバーに、ウイルス対策ソフトなどのセキュリティ対策ソフトウェアを導入します。そして、ソフトウェアやOSに脆弱性(セキュリティ上の弱点)が発見された場合に提供される修正プログラム(セキュリティパッチ)を速やかに適用し、常にシステムを最新の状態に保つことが、既知の攻撃から情報を守る上で極めて重要です。

通信経路や保存データを暗号化する

万が一、通信内容が第三者に傍受されたり、マイナンバー情報が保存されたパソコンやUSBメモリが盗難に遭ったりした場合に備える、最後の砦が「暗号化」です。暗号化とは、データを特殊なルールに基づいて意味のない文字列に変換し、正規の利用者以外には読み取れないようにする技術です。

例えば、行政機関に電子申請を行う際など、インターネット経由でマイナンバー情報を送信する場合には、SSL/TLSといった技術で通信経路自体を暗号化することが求められます。

また、ノートパソコンのハードディスクやUSBメモリに特定個人情報ファイルを保存する際は、ファイルや媒体そのものを暗号化しておくことが推奨されます。これにより、たとえ物理的に盗まれたとしても、中身のデータが漏えいする最悪の事態を防ぐことができます。

まとめ

本記事では、企業に義務付けられているマイナンバーの安全管理措置について、その全体像から具体的な対策、そして導入手順までを網羅的に解説しました。最後に、重要なポイントを改めて振り返ります。

マイナンバーの管理は複雑に感じるかもしれませんが、一つひとつの対策は企業の規模にかかわらず実践できるものがほとんどです。この記事を参考に、自社の管理体制を改めて見直し、従業員と会社自身を守るための適切な安全管理措置を構築してください。

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